大西「こちら〇〇海陸の大西と申しますが、
新藤さんの携帯で間違いないでしょうか？」
貴志『はい、新藤です』
大西「この度は４月採用エントリーして頂きありがとうございます
実はお願いがありまして
８月採用の方に変えていただけないでしょうか？」
貴志『８月…ですか汗。
なにかあったんですか？』
大西「４月採用の方は６名程エントリーいただいていたんですが、
８月採用の方は急なこともあり、
新藤さん以外の方は皆まだ今の会社に勤めておられてて
間に合わないようです」
大西「弊社としましても急な募集となってしまい申し訳なかったのですが
８月採用でお願いできませんでしょうか？」
貴志『そうですか…せっかくですが７月から３か月
世界一周クルーズに乗る予定なので無理ですね。』
大西「そうですか」
電話が切れた。
危ない危ない…うっかり‘はい’なんて言った日には
人生終わるところだったぜ…。
母「貴志！今誰からの電話だったのー」
母親が隣の部屋にいたのか…面倒だな
母「敬語使っちゃって誰からだったの？」
貴志『エントリーしてた会社から電話来て８月採用にしてくれないかってさ』
母「へーそれで勿論OKしたのよね？」
貴志『？』
『する訳ないだろ…断ったよ』
母「えぇぇぇぇ！ちょっとお父さん！！こっち来てー」
やれやれ面倒だな
母が父に事情を説明した後
ずかずか目の前にやってくる
貴志『なんだよ…！？』
父「貴志！お前分かってるのか？８月採用にしてくれないかってことは
そのまま採用しますってことだぞ
面接で戦わなくて済むんだぞ
こんな大手の会社が頭下げてきて来て下さいなんて、こんな嬉しいことないんだぞ！
それを断ったってお前！なんて断ったんだ？」
貴志『７月から世界一周行くから無理だって』
あーっとため息をつく二人
父「馬鹿正直に言いやがって！お前仕事よりも遊び優先したのバレたじゃないか！
こんなんじゃ４月採用で面接したって絶対に受からないぞ！」
父「今すぐ考え改めましたって電話しろー」
貴志『いやに決まってんだろ！なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ
俺じゃなくて勝手にどっかから人見つけてこいよ』
父「貴志…そんなこと言ってると…バチ当たるぞ」
父「なに余裕かましてんだよ！
もう知らんぞ！お前のせいで…お前のせいで
緑内障になったじゃないか！」
どうしてくれるんだ！」
貴志『どうもこうも心配してくれなんて頼んでないし
なに言ってんだよ！みっともない』
父は怒って大きな足をたてながら自分の部屋へ帰って言った。
扉が勢いよくバーンッと音をたてる
母「貴志…お父さんはね、貴志がニートしてる時ほんとは前の会社を勝手に辞めて、
働く時期も決めずに毎日のほほんとしていて
文句の一つでも言いたくて
ずっと我慢してて…そしてストレスで眼の病気になったの
船に携わる会社なんて滅多に近場である訳じゃないし
せっかく夢の世界一周が目の前にあるのに
貴志…なんて可哀想なの…
私もどっちが貴志にとっていいのか分からなくなってきたの
でもお父さんの気持ちも分かってあげて」
母は泣いて畳の部屋へ行ってしまった。
しかし、まぁ…確かに４月採用の面接を受けても
初めから印象悪い状態からスタートして落とされるのがオチだって…
そんな気がした。
そもそも現時点で６人と闘うことが決まっている。
富山付近には船を活かせる職業がなかなかない…。
これは…詰んだかな。
くそ…世界一周なんて知らなければ…今頃バイクで日本一周していたら
こんなことも気づかずに日本一周達成して
それから大手就職の希望なんて感情も生まれずに
中堅会社に就職していただろうに…。
世の中うまくできていないもんだな…。
涙がぽろぽろでてきた
いつぶりだろうこんなに涙が止まらにのは…。
気まずくて…それから二日間は外食をして過ごし
それ以降も外に出るか部屋に引きこもって
親と会わないように過ごした。
第08話 へ続く